人工血管になりましたが、障害年金はもらえますか。

- 詳しいプロフィール
- 2004年:厚生労働省入省
- 2008年:社労士資格を取得
- 2012年:西宮市の社労士事務所に就職
- 2015年:独立し、中井事務所を設立
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夫が大動脈解離で倒れて、あっという間に人工血管になりました。
今は休職していますが、車の運転業務をしていたので、「前の仕事には戻れない」と言われています。
今後が不安なのですが、障害年金はもらえますか。
ネットには「人工血管でもらえる!」と書いているページがありますが、「もらえなかった」という人もいるようです。
よろしくお願いします。
人工血管とは、血行再建を目的として、血管疾患部の置換や病変血管をう回するバイパス管として用いられる人工材料でつくられた代用血管をいいます。
人工血管は、障害年金の認定の対象とされているので基準を満たせば受給できます。
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。
障害年金には、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があります。
種類 対象となる人 障害基礎年金 「初診日」に国民年金に加入していた人 障害厚生年金 「初診日」が厚生年金保険加入中にある人 ※「初診日」とは、「病気やけがについて初めて医師の診療を受けた日」を指します
自営業者、フリーランス、専業主婦、無職の方は、障害基礎年金の対象となります。
障害の状態の前に、請求の条件を確認しましょう
障害年金を請求するためには以下の要件を満たしていることが前提となります。
- 初診日要件…原則として初診日に公的年金に加入していること
- 保険料納付要件…原則として保険料を、ある程度納付または免除をしていること
初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付または免除されていること。
または、初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと。
なお、20歳前の公的年金未加入期間に初診日がある方は、保険料納付要件は問われません。
このふたつの要件を満たしていれば、障害年金を請求することができ、障害の状態が基準に該当しているかどうか、審査を受けることができます。
審査の結果、基準に該当すると判断されれば、障害年金を受給することができます。
では、人工血管での障害年金の請求について、詳しくみていきましょう。
人工血管での障害年金請求について
人工血管置換術を受けている場合、定期的な検査が必要で、合併症や手術の後遺症が出現する可能性もあり、障害年金の認定の対象とされています。
まずは、どのような状態なら障害年金を受給できるか、みていきましょう。
どのような状態なら障害年金を受給できるか
障害年金では、ケガや病気の程度に応じて等級が設定されています。
▼障害基礎年金
1級と2級▼障害厚生年金
1級、2級、3級障害が重い順に、1級、2級、3級となります。
1級、2級、3級の状態は、以下の通りとなっています。
障害年金の等級 障害の状態 3級
※障害厚生年金のみ労働に著しい制限があるもの 2級 日常生活に著しい制限があるもの 1級 他人の介助がなければほとんど自分の用事を済ませることができないもの 人工血管置換術を受けた場合
胸部大動脈解離(Stanford分類A型・B型)や胸部大動脈瘤により、人工血管を挿入し、かつ、以下のいずれかに該当するものは、原則として3級と認定されます。
- 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの。例えば、軽い家事、事務など
- 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの
※人工血管にはステントグラフトも含まれます。
人工血管で障害年金2級が得られた事例はこちら
障害年金の受給額は以下の通りです。
障害等級 障害基礎年金 障害厚生年金 1級 年1,039,625円 年1,039,625円+報酬比例の年金額×1.25 2級 年831,700円 年831,700円+報酬比例の年金額 3級 ― 報酬比例の年金額(最低保障額623,800円) 障害年金だけでは悠々自適な生活はできませんが、受給できれば、日常生活に大きな助けとなるでしょう。
このページの最後の方に弊所で手伝って受給できた事例を掲載していますので、そちらもご確認ください。
人工血管をしていても障害年金が不支給になる場合
人工血管置換術を受けたの場合、上記の通り障害の状態は原則として3級に該当します。
そのため、障害基礎年金の請求(=2級以上でなければ受給できません)では認定を得ることが難しくなっています。
「人工血管を入れたのに障害年金を受給できなかった」と弊所に相談に見える方が度々おられます。
人工血管置換術を受けたのに障害年金を受給できなかった理由は、十中八九「初診日が厚生年金加入期間ではない」というものです。
※人工血管で障害年金2級が得られた事例はこちら
ご不安な方は以下からお問い合わせください。
「初診日の証明」が何より重要!
初診日の証明書(受診状況等証明書といいます)は、原則として、カルテに基づいて作成していただきます。カルテの保存期間は法律上5年間ですので、初診日に受診した医療機関にいかなくなってから5年以上経っている場合はカルテが破棄されていることがあります。
医療機関によっては5年より長い保存時間を定めているところもありますので、まずは連絡して確認しましょう。
初診日を確定できないと、
- 障害基礎年金の請求か、障害厚生年金の請求か。
- 保険料納付要件を満たしているか。
- 障害認定日はいつか。
を決めることができません。
これは、どんなに現在の障害の状態が重くても、障害年金の請求手続きすべてが止まってしまうことを意味します。
自分ひとりでは初診日が分からない、確定できないという方はご相談ください。
初診日の確定のために探偵のようになります。
また、人工血管置換術を受けた場合は受診状況等証明書の他に、「初診日に関する調査票」も提出する必要があります。
初診日の証明については、それだけ厳格さが求められます。
初診日の証明についてご不安な方は、以下からお問い合わせください。
それでは手続きの流れを確認しましょう。
障害年金の請求手続きの流れ
「障害年金を請求しよう!」と思ってから請求までの大まかな流れは以下の通りとなります。
- 初診日はいつだったかを確認する
- 保険料納付要件を満たしているかを確認する
- 初診日を証明する
- 医師に診断書を書いていただく
- 病歴・就労状況等申立書を作成する
- その他の必要な書類を添付する
- 年金請求書とともに揃えた書類を提出する
以下では弊事務所でサポートした人工血管の受給事例を紹介いたします。
ご参考いただき「自分ももらえるのではないか」という可能性を考えてみましょう。
人工血管での受給事例
事例1 病名:急性大動脈解離(発症して4か月後に認定を得られた事例)
外出時に突然胸の痛みが出現し、救急搬送されました。
大動脈解離と診断され、緊急手術にて人工血管挿入術を受けました。
退院後、しばらく休職することとなり、その間に障害年金の請求を検討され、ご相談にお見えになりました。
傷病名
急性大動脈解離
障害の状態
外出時に突然胸の痛みが出現し、即日、人工血管置換術施行
就労状況
正社員
身体障害者手帳の等級
なし
労働能力及び日常生活能力
日常生活活動能力はあり。ただし重いものは持たないようにすること。
予後
良好
認定が得られた障害年金の等級
障害厚生年金3級
障害年金の受給額
年額約100万円
本事例のポイント
初診日と障害認定日が同じ日であった。
人工血管置換術を受けた場合の障害認定日について
障害認定日とは、「障害の程度の認定を行うべき日」をいい、人工関節を入れた場合の障害認定日は、以下の「いずれか早い日」となります。
- 初診日から起算して1年6月を経過した日
- 人工血管置換術を受けた日
請求サポートさせていただき、無事支給となりました。
この方の場合、救急搬送され、即日人工血管置換術を受けたため、初診日と障害認定日が同日となりました。
迅速に障害年金を請求し、1年6カ月待つことなく障害年金を受給でき、大変安心しておられました。
事例2 病名:解離性大動脈瘤(2度の大動脈解離で、2級の認定が得られた事例)
高血圧からの大動脈解離により人工血管を挿入し、自分で障害年金を請求しましたが、厚生年金に加入していた高血圧の初診日を否定され、不支給。
その後、解離性大動脈瘤により入院したことで、再度障害年金の請求を検討されました。
傷病名
解離性大動脈瘤
障害の状態
大動脈解離のため人工血管置換術施行。
その4年後に再度、急性大動脈瘤との診断を受け入院した。
就労状況
無職
身体障害者手帳の等級
なし
労働能力及び日常生活能力
軽労作で息切れなどの症状があり労働能力、日常生活能力に制限がある。
予後
不明
認定が得られた障害年金の等級
障害基礎年金2級
障害年金の受給額
年額約80万円
本事例のポイント
人工血管置換術を受けた場合、原則として障害年金3級に相当するが、障害基礎年金の請求であり、2級に該当しなければ受給できなかった。
人工血管置換術を受けているが、障害基礎年金の請求となるケース
人工血管置換術を受けている場合、原則として障害年金3級に相当します。
障害年金3級は、障害厚生年金の請求(=初診日が厚生年金期間中)でなければ受給できず、障害基礎年金の請求(=2級以上でなければ受給できない)の場合は、認定を得ることが難しくなっています。
しかし、以下のような場合、障害基礎年金の請求となります。
- 初診日時点で国民年金被保険者であったケース
- 初診日の時点で専業主婦(第3号被保険者)だったケース
- 初診日の時点で20歳前の年金未加入期間中だったケース
など
ご不安な方は以下からお問い合わせください。
高血圧から大動脈解離を発症した場合の取扱いについて
高血圧の治療を受けていた方が大動脈解離を発症した場合、高血圧と大動脈解離とは、相当因果関係はないと判断されます。
そのため、高血圧の初診日の時点で厚生年金に加入していても、大動脈解離を発症した時点で退職しており厚生年金の被保険者でない場合は、障害厚生年金の請求はできません。
ご不安な方は以下からお問い合わせください。
大動脈疾患で2級に該当するケースについて
大動脈疾患では、特殊な例を除いて心不全を呈することはなく、また最近の医学の進歩はあるが、完全治癒を望める疾患ではないため、一般的には1・2級には該当しないとされています。
しかし、本傷病に関連した合併症(周辺臓器への圧迫症状など)の程度や手術の後遺症によっては、2級以上に該当する場合も考えられます。
請求サポートさせていただき、無事2級の認定となりました。
本事案では高血圧からの大動脈解離でしたが、初診日は大動脈解離を発症した時点となり、障害基礎年金の請求(=2級以上に該当しないと受給できない)となっていました。
詳しく聞き取りをすると、解離性大動脈瘤のため常に安静を強いられ、軽労働すら困難な状態でした。倦怠感が強く、息切れ等の症状も顕著で、日常生活においては家族のサポートが不可欠な状態でした。この状態は上記3級よりも悪化した2級に該当する可能性が考えられました。
以前人工血管を挿入した際に障害年金を請求し不支給となっていましたが、もう一度請求に踏み切りました。
医師ともよくコミュニケーションが取れており、2級の認定が得られたときには医師も依頼者も一緒に大変喜んでおられました。
障害年金の審査について
障害年金の審査に、面接はありません。
すべて書類で審査されます。
そのため、書類だけで「日常生活にどのような制限を受けているのか」「働いているならどんな風に働いているのか」を審査機関に分かるように作成しなければなりません。
本当は障害年金を受給できる状態なのに、書類が不十分だからといって不支給になるのは残念なことです。
障害の状態の審査には、主に「診断書」と「病歴・就労状況等申立書」が使用されます。
診断書について
障害年金を請求するための診断書は、治療のための医学的な診断書ではなく、生活に必要な所得保障のための社会医学的な診断書です。
そのため、病気やけがなどによって日常生活にどれくらい影響を及ぼしているかがわかるように作成いただくことが大切です。
自分一人でお医者様に伝えることが難しい場合は、お医者様に伝えるべきポイントを整理するようサポート致しますのでお問い合わせください。
病歴・就労状況等申立書について
これは、「発病から現在までの病状・治療の流れ」「日常生活の様子」を記述し、あなたの症状や生活状況が、障害年金の基準を満たすことを申し立てるものです。
適切な「病歴・就労状況等申立書」を作るために必要なことは以下の2点です。
- 自分自身の状況を客観的に把握すること
- 把握した内容を、審査機関に伝わるようにわかりやすく記述すること
ただでさえ障害を抱えて大変な状況なのに、時間と精神的・体力的な負担がかかる作業になるおそれがあります。
私にご相談いただければ、代筆いたします。
障害年金を受給するために
障害年金の申請は、国民年金法・厚生年金法や認定基準等をご存じない方がひとりで対応するには限界があります。
ご自分の生活がかかった大切なことなので、専門家である社労士に知識・経験を求めるのが最善の選択です。
「事務手数料の2万円を支払うのが惜しくて、とりあえず自分でやってみたけど不支給だった。なんとかしてください」というご相談をいただくケースがあります。
当然その時点からできる限りのサポートをさせていただくのですが、事後重症請求の方の場合、1か月請求が遅くなれば、障害基礎年金2級なら毎月約6万5千円ずつ捨てていくことになります。
最初にかかる2万円の事務手数料を惜しんだばかりに、障害年金の受け取りが数か月遅くなっては本末転倒です。
一人でわけも分からず不安いっぱいで戦うのではなく、あなたの代理人となって受給に向けて取り組んでくれる専門家である社労士を味方につけてください。
お気軽にお問合せください。
障害年金は国の施しではありません。国民の権利です。
煩雑な手続きを代行し、権利を行使するお手伝いをしっかりさせていただきます。
どんなご相談でも承ります。お気軽にお問合せください。
お電話でも承ります
06-6429-6666
平日9:00~18:00
このQ&Aの回答者
- 2004年:厚生労働省入省
- 2008年:社労士資格を取得
- 2012年:西宮市の社労士事務所に就職
- 2015年:独立し、中井事務所を設立
心疾患に関するその他のQ&A
- 人工血管になりましたが、障害年金はもらえますか。
- 夫が大動脈解離で倒れて、あっという間に人工血管になりました。今は休職していますが、車の運転業務をしていたので、「前の仕事には戻れない」と言われています。今後が不安なのですが、障害年金はもらえますか。ネットには「人工血管でもらえる!」と書いているページがありますが、「もらえなかった」という人もいるようです。よろしくお願いします。
- 特発性心筋症でペースメーカーをしていませんが障害年金はもらえませんか。もらえる場合はいくらですか。
- 私は現在50歳です。工場で勤務しています。2年前、動悸や息切れが出るようになったので病院を受診したところ、特発性拡張型心筋症と診断されました。現在も投薬治療を受けていますが、動悸や息切れが常にあり、デスクワークの仕事に変えてもらっています。残業も免除してもらっているため、収入が減っています。自宅ではぐったりすることもあり、家のことができず妻に負担をかけています。障害厚生年金の受給ができればと考えたのですが、心臓の病気はペースメーカーやICDを入れていないともらえない、働いていてはもらえないと聞きました。私はペースメーカーもICDも入れていません。このような状況では障害厚生年金の受給は無理でしょうか。また、もし受給できるとしたら、年金の額はどの程度でしょうか。
- うつ病が再発し、寝たきりの状態になっているので、障害基礎年金は再支給されるでしょうか。
- 私は心筋梗塞が原因で心不全を繰り返し、日常生活に支障が出ているため障害基礎年金2級を受給していました。しかし、先日の再認定で3級になり、支給停止になりました。仕事も退職しているため障害基礎年金で生活していたのに、突然支給停止になり、それまで安定していたうつ病が再発し、現在は寝たきりの状態になっています。この状態で支給停止事由消滅届を出せば、障害基礎年金は再支給されるでしょうか。
- 先天性の心疾患ですが、障害年金の病歴就労状況等申立書には生まれた時から書くのですか。
- 私は先天性の心疾患のため幼少の頃からずっと通院しています。先日ペースメーカーを入れました。ペースメーカーを入れたら障害年金がおりると聞いたので申請しようと思っていますが、病歴・就労状況等申立書には生まれた時から書かなければならないのでしょうか。
- 障害年金の申請で病歴就労状況等申立書に詳細に書くと、審査に不利になるでしょうか?
- 私は統合失調症、強迫性障害、パニック、アスペルガー症候群など、数え切れないほどの精神疾患を抱えています。障害基礎年金の請求をするのに診断書を書いてもらいました。診断書には書いていないことや毎日本当に辛いこと、生きづらいことなど、どうしても伝えたいことを病歴就労状況等申立書に書こうと思っていますが、あまり詳細に書くと文章を書く能力があるとみなされて審査に不利になるでしょうか?